2010年11月26日金曜日

葛乃葉物語-3 恋しくば 尋ねきて見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉 堺市の中心で?を叫ぶ

その秋も中ごろ
葛乃葉は我が子を寝かせ秋風の肌に心地よいまま
縁先に腰をおろし、庭に咲き乱れた乱菊の花を見るにつけ、
六年前立ち出たまま帰らぬ信太の森の棲家のことなど
恍惚と考えるうち
いつしか神通力がゆるんだのでしょうか
化性の姿を顕したのに少しも気がつきませんでした。
「母様こわい」
ワッと泣き出す童子丸の声に
ハッと我が身にかえった時はもう取り返しがつきませんでした。

その夜いよいよ
この家を去る決心をした葛乃葉は我が子の寝顔を打ちまもり
「コレ童子丸、今この母が申すことをしかと聞き覚えよ、
我はもと人間ならず、六年前 信太の森にて
悪右衛門(狩人の隊長)のため狩り出され、
死ぬる命を汝の父保名どのに助けられし狐ぞや
その恩に報ゆるもさる事ながら保名殿は
信太の森大明神に信仰なし、
安倍家の再興を念じたまう故にその真心感心ましまし、
我は稲荷大明神の仰せを受け仮に女の姿と変じ
保名どのと契りを結びそなたをもうけしは、
安倍の家名を興さしめんためなり、
それ夫婦親子の愛は愚痴なる畜生三界とて変わりないぞや、
せめてそなたが十になるまで居りたけれど、
我が本性を見られし上は しばしも止り難し、
これから後は父上の云う事をよく聞いて
手習学問に精出し仁義の道を忘れずに成人せよ、
そなたにあげるこの宝玉は大事にして肌身離さず持たれば
必ず役立つこともあるぞ…」
と童子丸の枕元へ置いて立ちあがりましたが
今別れてはいつの世に又逢えるかと
別離の涙に暮れたことでした。
せめて夫への形見に一筆書き残さんと傍らの障子に
口に筆をくわえて書き残したのが世に有名な左の一首です。

恋しくば 尋ねきて見よ 和泉なる
信太の森の うらみ葛の葉

堺市の中心で?を叫ぶ