2010年12月3日金曜日

陰陽師 生成り姫 夢枕獏 堺市の中心で?を叫ぶ

付喪神ノ巻に収録されている鉄輪という話を長編化したもので、陰陽師シリーズ初の長編

長編というスペースの余裕のせいか、陰陽師、それから主人公(道満もふくめて)についての詳しい解説がかなりの部分を占めます。
しかし過去の短編でのエピソードについても伏線としてかなり言及されますので、やはり短編を読んでから読むのがお勧めです。
7つに分かれていて、短編作品集と取ることもできないこともない

十二年前、名前も素性も知らず、ただ思いを寄せた姫がいた。博雅の告白が発端になり、晴明たちは事件に巻き込まれてゆく。

謡曲「鉄輪」を知っていればもっと楽しめるかもしれません。
しかしこの長編のエッセンスとフォーマットそして決着は短編と変わりません。
そしていくつかの例外を除いて終わりは悲しいものです。

ただ長編というスタイルは、最後への盛り上がりをより劇的にしています。
このシリーズも最終的なは好みです。
私は、短編集のほうが、テンポもあって好きです。
これに魅惑される人もいれば、これに飽きてしまう人もいるのでしょう。

博雅の切ない恋の話だが、その他にも晴明や博雅のちょっとした話が書かれている。

“生成り”とは、生きながら鬼と化してしまうこと。
タイトルからも話の流れからも早い段階で、この生成り姫が博雅の恋の相手である事は推測できる.
その恋がどう発展するのか?
博雅が彼女との出会いの後どうしたのか?
彼女はどうなったのか?
その過程が哀しくも美しく書かれている。

最後の姫と博雅の会話とやりとりにはとても感じるものがありました。
鬼であっても年をとっても愛してるのに、それは成就せずにただ、その心と言葉だけがすれ違っていく。

堺市の中心で?を叫ぶ