探偵ガリレオシリーズ第4弾。2008年に『聖女の救済』と同時刊行した推理短編小説集。
『探偵ガリレオ』には、科学の力でオカルト現象を解明するという統一テーマがあり、
続篇の『予知夢』ではさらに心霊現象の要素が強化されていた。
『ガリレオの苦悩』も前二作の路線を踏襲した連作集であるが、湯川自身が深く事件に関与した作品が多いという特色がある。
この作品からテレビドラマ『ガリレオ』の企画から生まれたキャラクターである内海薫が登場する。
第一章・落下る(おちる)
マンションから一人の女性が転落死する事件が発生。
被害者に鍋で殴られた痕跡があったことから他殺の可能性も浮上し、捜査一課が担当することになった。
その後被害者の先輩である岡崎光也が名乗り出て、被害者宅に訪れたことやマンションを出て行った後
被害者が転落する場面を目撃し、その場でピザ屋の店員にぶつかったアリバイを供述する。
だが女性刑事の薫は女性用の下着が入った宅配便が玄関前にあったことなどを理由に岡崎が被害者と恋人関係にあると睨み
岡崎に疑念を向ける。だがその岡崎が離れた場所にいてどうやって被害者を転落させたのかはつかめないでいた。
(女性ならではの視点)
そこで薫は草薙に頼み込んで、以前捜査協力をしていた湯川に協力を仰ぐことに。
だが草薙から紹介状を受けた湯川には協力する意思はなく頑なに協力を拒むのだった。
落胆した薫だったがトリックに関する自分の仮説を述べたことで湯川に「価値の無い実験は無い」という言葉を送られ、
自分の説の検証に挑んでいく。
江島千夏…マンション転落事件の被害者。銀行に勤めている。
岡崎光也…大型家具屋のセールスマン。
江島千夏とは大学のテニス同好会の先輩という間柄で、事件前はベッドのカタログを江島千夏に渡すために江島千夏家に訪れていた。
三井礼治…「ドレミピザ木場店」の配達員。事件前にはピザの配達のためにマンションに訪れ、その時に岡崎とすれ違っている。
第二章・操縦る(あやつる)
かつて「メタルの魔術師」と呼ばれた一人の男。
元帝都大学助教授だったその男は久々にかつての教え子たちと自宅で酒を飲んでいた。
男は席を外し、教え子たちが話をしていると、離れ家から炎が上がり始める。
離れ家に住んでいたのは「メタルの魔術師」友永幸正の息子である邦宏で、消防の必死の消火もむなしく、すでに息を引きとっていた。
警察は火事による焼死と見ていたが、遺体の状態から刺殺であることが判明。
しかし、離れ家は密室。さらに凶器も見つからず、特定もできていない。
担当の草薙たちが現場に到着すると、なんとそこには湯川がいた。
湯川もこの久々の再会に参加する予定であり、その場には間に合わなかったものの、事件の状況は把握していた。
偶然事件に巻き込まれた湯川だが、事件の真相を追うにつれ、意外な真実を知ることになる。
友永幸正…元帝都大学助教授で、かつては「メタルの魔術師」と呼ばれていた。被害者の父親。
しかし、娘の奈美恵や息子の邦宏、前妻や亡くなった妻とは複雑な家庭事情があった。
現在は脳梗塞の後遺症があるため、車椅子で生活している。
新藤奈美恵…幸正の内縁の娘。身体の悪い幸正の身の周りの世話をしている。
友永邦宏…幸正の前妻との息子。残酷な人間性の持ち主で、幸正や奈美恵、近所の住民からも煙たがられていた。
この事件の被害者。
第三章・密室る(とじる)
ペンションを経営する友人・藤村からある事件に関わる謎の解明を依頼された湯川は藤村のペンションに招かれる。
その謎は藤村のペンションの客がガードレール下で転落死したことが発端だった。
事件の前、夕食頃に藤村が被害者を呼んだところ応答が無く、内側にドアチェーンが掛かり、窓からも鍵が掛かっていた。
2度目に呼んだときには被害者がいる気配がしたが、しばらくすると他の客から窓が開いているのを聞いたときには
被害者は失踪し転落死していた。
藤村は最初に呼びかけた時には鍵が掛かった部屋の中にいなかったはずの被害者が2度目の呼びかけた時に部屋にいたという
「密室」の謎が気に掛かっていた。
藤村の頼みを聞いた湯川は謎を解明するため周囲への聞き込みを開始する。
だが藤村は必要以上に事件前の周囲の状況を詳しく知ろうとする湯川の詮索を嫌い、最終的に調査を断ってしまう。
だが、その次の日湯川は事件の裏にある一つの結論を藤村に告げる。
藤村伸一…湯川と草薙の友人でペンション経営者。
元商社マン。草薙を通じて湯川の活躍を知り、ペンションで起きた「密室」の謎の解明を湯川に依頼する。
藤村久仁子…藤村の妻。両親は土砂崩れの巻き添えになって他界している。元はクラブのホステスで3年前に藤村と親密になり結婚。
祐介…久仁子の弟。観光協会勤務。
原口清武…藤村のペンションの宿泊客。自身の部屋で謎の失踪を遂げた後、転落死している。
第四章・指標す(しめす)
ある老女が何者かに殺され、さらにその家から金の地金が盗まれる事件が発生。
また事件があった時には被害者が飼っている犬がどこかへいなくなっていた。
犯行のあった日に被害者宅を訪ねた真瀬貴美子に嫌疑が掛かるものの証拠が見つからず捜査は難航するのだった。
ある時同僚の岸谷と真瀬家の張り込みをしていた薫は貴美子の娘・葉月が一人で家を出るところを見かけ、
不法投棄が行われている場所まで後をつけたとき、薫と葉月は洗濯機に捨てられた被害者の犬の死骸を発見する。
薫は葉月からの証言を聞くが、その証言は葉月がダウジングをすることで被害者の犬の居場所を突き止めたという
俄かには信じられない内容だった。
葉月の証言の対応に困った薫は湯川に相談を持ちかける。そ
れを聞いた湯川は真偽を確かめるため葉月との対面を薫に指示する。
真瀬葉月…中学生。未来を指し示す水晶の振り子で自分の今後を決めている。
真瀬貴美子…保険会社のセールスレディで葉月の母親。3年前に夫を亡くしてから、女手一つで葉月を育てている。
碓井俊和…貴美子の上司。仕事の面で貴美子をサポートしていた。また貴美子とは恋人関係にある。
野平加世子…事件の被害者である老女。夫が残した金の地金を所有している。
第五章・攪乱す(みだす)
ある日、警視庁の元へ届いた一通の手紙。悪魔の手と名乗るその手紙の差出人は自分の意思で自在に人を葬ることができるという。
にわかに信じがたいその内容に、警察は悪戯とも本物の予告状とも決められずにいた。
しかし、その予告状にはT大学のY准教授の名が書かれていた。すると草薙の元に湯川から電話がかかってくる。
なんと、湯川の元にも似たような手紙が届いたという。犯人は、湯川に挑戦状を出したということだった。
犯人が誰なのか、本当の目的が何なのか、警察は何もわからぬまま、悪魔の手と名乗る人物は動き出す。
その後、悪魔の手は妙な方法の犯行予告による殺人をはじめ、様々な手を使って警察を翻弄。
打つ手のない状況に困り果てた警察。しかし、湯川の推理と薫の執念が犯人のトリックのわずかな綻びからその真実を暴いていく。
悪魔の手…湯川と警察に勝負を仕掛けた謎の男。
上田重之…ベテランの作業員だったが、ビルの高所作業中に転落して死亡。悪魔の手は、彼が自らの手によって葬られた最初の人物だという。
石塚清司…首都高を車で走行中に死亡。彼もまた、悪魔の手による被害者だという。
高藤英治…企業の研究部門で働いていたが、人事異動により研究部門をはずされ、納得がいかずに会社を退職していた。
堺市の中心で?を叫ぶ